戦略的な地域の放棄?

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夕張市が財政再建団体の申請を行うらしい。
もともと炭鉱の町として成立していた夕張市だが、炭鉱の閉山とともにその人口も急速に減少していた。公共事業でなんとか人口を引き止めていたが、昨今の補助金削減でそれも限界。財政はさらに悪化し、ついにこのときを迎えた。

さて、先日参加した土木計画学研究発表会(土木学会土木計画委員会)で、人口減少時代の土木計画学についてのセッションがあった。そこで話題となったのが、「戦略的(都市)撤退」である。
報告者はこれを「アーバントリアージ」と呼んでいた。
トリアージとは、事故や災害が発生したときに、多数の傷病者を重症度と緊急性によって分別する方法である。助からなさそうな人よりも、助かりそうで、重症度が高い人を優先的に搬送するために、トリアージタックで患者を区別する。福知山線の脱線事故のときにも注目された。
アーバントリアージや戦略的撤退といえば聞こえがいいが、つまりは「発展性のない都市・集落を放棄する」ということである。
そして、その研究事例として出ていたのが夕張市であった。

発表の概要は以下の通りである。
(1)持続可能な発展のためには、アーバントリアージが必要である。
(2)方法としては、基幹産業の移出と公共サービスの停止を行うことで、強制的ではない人口の減少をはかる。
(3)事例として、基幹産業が移出することで、人口が減少するモデル(ローリーモデル)を用いて、夕張市の事例を検討した。
(4)ローリーモデルによる推計では人口は著しく減少したが、実際の夕張市の人口は推計を上回っていた。基幹産業の移出だけでは、うまく撤退できない可能性がある。
(5)今後は、人口が残存する条件を分析し、戦略的な都市撤退を行うための方法論を検討する

反応はもちろん賛否両論である。ただ、賛成する研究者は決して少なくなく、全体的には撤退はやむなしのトーンである。つまり、積極的に維持を主張する人はいない。
まあ、コンパクトシティという概念もあるし、環境影響的にもそのほうがよいとはわかっているのだが、納得できないのは僕が地理学者だからだろう。
だから、ふと思うのは、これが地理学会で発表されたらどうなるだろうなぁ…と。

しかし、持続可能な発展の名の下、定量的・科学的な根拠を示しつつ展開される「撤退やむなし」の他分野の主張に、「地域の多様性」を主張する地理学はまだ科学的な反論の根拠を持っていないと考える。
僕たち地理学者はまず「地域」ありきである。しかし、それでは通用しない時代であるのも確かだ。
他分野の学会などに出席することで、その思いはさらに強く感じている。

現実には地方交付税は減らされ、人口も減少し、高齢化はさらに進む。

「撤退という形で地域・都市を捨てるのは正しいのか?」
「地域を維持すべきという科学的根拠は何か?」

学界を挙げて考え、主張していくべき課題だと思う。
そうでないと、声の大きい方々の一方的な主張が国や国民に受け入れられ、トリアージの名の下、地域は捨てられていくことになる。(ダムに沈んだ村もあったし…)
地理学者は声をあまりださない。しかし、すでに地理学者が取り組んできた多くのものがそうやって、声の大きい方々に奪われていった過去がある。地域の存在そのものまで奪われたそのとき、地理学は存在している意義はあるのだろうか。